ポインタを使ったデータ構造をHaskellの代数的データ型と相互変換したい
再帰的なデータ構造
Cのような言語で再帰的なデータ構造(連結リストなど)を扱う場合、ポインタを使って
struct ST_VEC3D_LIST {
double x;
double y;
double z;
struct ST_VEC3D_LIST * next;
};
というような構造体を定義してやるのが常套手段です。
要素を追加するときは next
ポインタでつないでいって、リストを手繰るときは next
ポインタを再帰的に参照していくことになります。リストの終端は next
に NULL
を代入することで表現します。
さて、このようなデータをHaskellで扱いたくなったときのことを考えます。上記のようなデータを受け取ったり返したりするCの関数をFFIで呼びたくなったとか、そういうCの関数を QuickCheck でテストしたくなったとか。
とりあえずHaskellに用意されている Foreign.Ptr
を使って、struct ST_VEC3D_LIST
と同じ構造を定義してみましょう。
import Foreign.Ptr
data Vec3DList =
Vec3DList
{ x :: Double
, y :: Double
, z :: Double
, next :: Ptr Vec3DList
}
ひとまず同じ構造のデータ型は定義できましたが、このままではHaskell的には使い勝手がよくありません。 Ptr a
型の値の操作は基本的にIOアクションになるので、関数的な記述の中に組込むのには難があります。例えば、 QuickCheck の Arbitrary を使ったテストパターンの生成ができません。
しかたないので、 Ptr
を使う代わりに Maybe
を使って、 Vec3DList
とisomorphicなデータ型を定義してやりましょう。名前は HVec3DList
とでもしておきます。
data HVec3DList =
HVec3DList
{ hx :: Double
, hy :: Double
, hz :: Double
, hnext :: Maybe HVec3DList
}
NULL
ポインタをリストの終端に使う代わりに、 Nothing
でリストの終端を表現してやるわけです。
相互変換するでござる
Isomorphicなデータ型をできたところで、相互に変換できなくては意味がありません。
それに当たって、ポインタの先からデータを読んだりポインタの先にデータを書いたりする必要があります。
ポインタの先のデータを読み書きするのには Storable クラスの peek
/ poke
メソッドを使うのですが、先程定義した Vec3DList
はまだ Storable
のインスタンスにはなっていません。Vec3DList
を Storable
のインスタンスにするには、より細かいメモリ操作を使って peek
や poke
を定義してやらないといけません。なんだかつらみのある世界になってきました。
ですが、今のGHCにはGenericsという強力な仕組みがあり、そこを自動でやらせることができます。(derive-storable パッケージが必要)
{-# LANGUAGE DeriveGeneric #-}
{-# LANGUAGE StandaloneDeriving #-}
{-# LANGUAGE FlexibleInstances #-}
module Vec3DList where
import GHC.Generics (Generic)
import Foreign.Ptr (Ptr, nullPtr)
import Foreign.Storable
import Foreign.Storable.Generic
import Foreign.Marshal.Alloc
data CVec3DList =
CVec3DList
{ x :: Double
, y :: Double
, z :: Double
, next :: Ptr CVec3DList
} deriving Generic
data HVec3DList =
HVec3DList
{ hx :: Double
, hy :: Double
, hz :: Double
, hnext :: Maybe HVec3DList
}
deriving instance Show CVec3DList
instance GStorable CVec3DList
分かりにくくなりそうだったので、C側のデータ型は CVec3DList
という名前に変更しました。
データ型の定義に deriving Generic
宣言を追加することで CVec3DList
型に Generics が使えるようになり、CVec3DList
型を GStorable のインスタンスとすることで、 Generics を使って Storable
に必要なメソッドが自動的に導出されます。
では導出されたメソッドたちを使って、Haskell側のデータ型との相互変換を記述しましょう。
toCVec3DList :: HVec3DList -> IO (Ptr CVec3DList)
toCVec3DList (HVec3DList x' y' z' r) = do
r' <- case r of
Just v -> toCVec3DList v
Nothing -> return nullPtr
p <- malloc :: IO (Ptr CVec3DList)
poke p (CVec3DList x' y' z' r')
return p
fromCVec3DList :: Ptr CVec3DList -> IO (Maybe HVec3DList)
fromCVec3DList p
| p == nullPtr = return Nothing
| otherwise = do
(CVec3DList x' y' z' r) <- peek p
r' <- fromCVec3DList r
return (Just $ HVec3DList x' y' z' r')
型定義を高カインド多相でまとめる
ところで、C側のデータ型とHaskell側のデータ型をそれぞれ CVec3DList
、 HVec3DList
と定義していたわけですが、どうにも冗長です。しかも、レコード名の重複を防ぐために見苦しい感じの定義になってしまっています。
そもそも、 CVec3DList
と HVec3DList
とでは
next :: Ptr CVec3DList
hnext :: Maybe HVec3DList
のところが Ptr
か Maybe
かという違いしかないので、なんとかまとめたいところです。
そこで、こいつらを 高カインド多相 (higher kind polymorphism)を使って多相型にしてしまいましょう。要は、 Ptr
や Maybe
が入るところを型変数にしてやればいいわけです。この場合、ここに入るのは種 * -> *
の型コンストラクタになります。
以下がその定義です。
data Vec3DList f =
Vec3DList
{ x :: Double
, y :: Double
, z :: Double
, next :: f (Vec3DList f)
} deriving Generic
Vec3DList
は種 * -> *
の型コンストラクタ1つを引数にとる型コンストラクタで、next
の型はなんだか不動点演算子みたいになりました。今までの CVec3DList
と HVec3DList
は以下のような型シノニムになります。
type HVec3DList = Vec3DList Maybe
type CVec3DList = Vec3DList Ptr
コード例
以上のテクニックを使ったコードの例をgistの Vec3DList.hs にあげておきます。